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親子の愛着をとおして見る「愛」の闇

2020年2月26日

貴方はどんな人ですか?

  1. 「私は安心して他人に自分を委ねることができ、他人からも頼られます。辛いことがあった時も、うれしいことがあった時も、安心して気兼ねなく他人に話して聞かせます。親密な関係になった時、かつて拒絶されたり傷つけられたりしたことがあっても、パートナーが自分を愛してくれていると信じます。」
     
  2. 「私は片時も離れないような親密な関係になり、一日中相手とくっついていることを強く望みます。傍に常に誰かがいてくれる感じが好きなので、いつも友達やパートナーと一緒にいたいと思います。周囲の人から色々な理由で誘いを断られると、好かれていないのかと考えこむことがあります。」
     
  3. 「私は自立し、生活の中の事柄はほとんど自分の力でこなします。友人やパートナーもいますが、本当は彼らが接近してきたと感じるたびに、恐れを感じたり、逃げたいと思ったりします。プライベートな空間を必要とし、他人の邪魔になることはしません。また相手と関係を誓うこともありません。」
     
  4. 「自分が矛盾していると思う時があります。毎回懸命に親密な関係を築くのに、将来結婚しようという話になると、尻込みし、さらにひどいことに相手をはねのけてしまうこともあります。よい関係を望んでいると思うのですが、どうも幸せになる自信と確信がなく、追いかけたり避けたりを繰り返します。」

実は、この4つの「私」は、20世紀のイギリスの有名な心理学者ジョン•ボウルビィ(John Bowlby)とアメリカの心理学者メアリー•エインスワース(Mary Ainsworth)の愛着理論(attachment theory)をもとに述べました。愛着は以下4つのタイプがあります。(Ainsworth、1973年、 Bowlby、1969年)

  1. 安全の愛着 (secure attachment)
  2. 不安の愛着 (anxious attachment)
  3. 回避の愛着 (avoidant-attachment)
  4. 混乱の愛着 (disorganized attachment)

このうち安全の愛着を持つ人は人と健康的に関わり、いつも他の3タイプの愛着を持つ人を大きく変える偉大な人になりうると、ジョン•ボウルビィは指摘しました。世界の約50-55%の人の人格的特質は安全の愛着に属します。そして不安の愛着が20%、続いて回避の愛着が15-20%、混乱の愛着が5-10%です。

愛着理論の実験の根拠

1960年代、ジョン•ボウルビィは児童精神医になる前、イギリスにある問題児を収容するクリニックで訓練を受けていました。この期間に、ジョン•ボウルビィはこの冷酷な暴れん坊の青少年達が皆共通して欠損家庭の子であることに気づきました。欠損とは、家庭内で子供を世話する者が、子供が必要とする生理、心理上の配慮をしないことを指します。例えば子供が空腹で泣いている時、世話する者が無視するような態度をとることです。ジョン•ボウルビィの理論がクリニックの児童の実例により証明されると、アメリカの心理学者ハリー•ハーロウ(Harry Harlow)は彼の専門分野である霊長類動物を利用して実験を行い、これら哺乳類の動物が「親密な関係」を必要とするかどうか確認することにしました。これからこのおもしろい実験について簡単に述べます。

実験中、最初子猿はしばらく探索し、両側の人形が攻撃しないことを知ったうえで接近し始めました。その子猿はいつも利口に針金で作った人形のところに行ってミルクを吸いますが、吸い終わると、自分と同じ毛むくじゃらの代理母の上に駆け戻ります。特に注目したいのはここからです。その後ハリー•ハーロウが故意に機械の人形を見せて子猿を驚かし、頼る相手として針金の人形、布の人形のどちらを選ぶか見てみました。その結果、子猿はやはり代理母である布の人形の方へ走って行きました。このように、子猿の心理面における愛着の必要は生理面における必要をはるかに上まわっていました。

ジョン•ボウルビィが独自の愛着理論を発表した後まもなく、この理論に興味を示したアメリカの発達心理学の専門家メアリー•エインスワースが学齢前の児童を対象として実験を行いました。まず、保護者の同意を得たうえで、保護者に子供と一緒に部屋の中で遊んでもらいました。しばらくして、見知らぬ人が部屋に入って親子二人と軽く対話をしました。しばらくして母親は一人で部屋を出て行き、子供とその見知らぬ人が残りました。子供は母親がドアを閉めた瞬間大声で泣き始め、母親が戻って来てなだめるまで泣き止みませんでした。途中で見知らぬ人が子供をなだめようと試みましたが、子供は泣き続けました。同様の実験を2回繰り返したところ、母親がいなくなると、子供は生理的な恐怖、苛立ちを示し、母親が戻ってくると正常に戻りました。エインスワースは、この子供の反応は健康な「安全の愛着」関係の現れだと述べています。そして不安の愛着や回避の愛着を持つ子供を見ると、前者は通常母親が戻った後も泣き続け、大騒ぎします。後者は母親がいなくなっても冷静にふるまい、動じません。

ジョン•ボウルビィ、メアリー•エインスワース、ハリー•ハーロウは、様々な実証、研究と長期的な追跡・観察をとおして、幼少時の家族関係はその後の人間関係、特に親密な関係における付き合いや対話に影響する重要な要素だと考えました。次週、上記4つの愛着に属する人の行為パターンと彼らと関係のある心理の世界について詳しく解説しましょう。さきほど自分とパートナーをチェックした結果、下3つの不健康な愛着であった方に申し上げます。「大丈夫。幼少期の親子生活は確かに大きく影響しますが、それでも自分と周囲の手助けにより将来の親密な関係をうまく築くことができます。」それでは、次週もぜひお読みください。

参考文献

  • Ainsworth, M. D. S. (1973). The development of infant-mother attachment. In B. Cardwell & H. Ricciuti (Eds.), Review of child development research (Vol. 3, pp. 1-94) Chicago: University of Chicago Press.
  • Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss: Vol. 1. New York: Basic Books.
  • Bretherton, I. (1992). The origins of attachment theory: John Bowlby and Mary Ainsworth. Developmental Psychology, 28, p. 759-775. https://doi.org/10.1037/0012-1649.28.5.759