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救急診療室の靴紐

シューレース法について

2019年8月15日

急診の前

「メス」:

靴紐さん、用もないのにオペ室に入ってきてどうしたのですか。関係者以外立入禁止ですよ。ご家族の待合室はあちらです。

「靴紐」:

まあ、なんて言い方なの。貴方、後で私の正体を知ったらびっくり仰天して、手術台にのることになるわよ。

靴紐さんの正体とは何でしょうか。なぜ救急診療室に現れたのでしょうか。続けてお読みください。

急診中

ドクター:​

君、早くメスを!この患者は大腿内圧が急速に上昇して血液循環が滞り始めている。「コンパートメント症候群」(Compartment Syndrome)に違いない。このままでは大腿の細胞組織が壊死して大変なことになる。

ナース:​

患者の右大腿が外または内側から圧迫されたために起こるコンパートメント症候群ですか。ではすぐに「筋膜切開術」(Fasciotomy)で大腿の筋肉、神経、血管を包む筋膜を切開し、内部の圧力を小さくする必要がありますね。

ドクター:​

そのとおり、理解が速いな。[黙々と大腿表層と筋膜を切開する]

ナース:​

でも、先生、通常筋膜切割手術の後、よく表層の傷縁が収縮し、めくれます。これだと術後の傷の復原が難しくなり、皮下の細胞が壊死してしまいますが、どうしますか。

ドクター:​

大丈夫。「シューレース法」で傷口を縫合すればいい。「シューレース法」(Shoelace Technique)は一般の靴紐を結ぶ手法に照らして、まず縫合用ホチキスを傷口の両側に靴紐の穴を開けるように打つ。各穴の間隔は約2cm、傷口からの距離は約1cmにする(Jeng et al.、2003、Saini et al.、2018)。それから、絹糸または弾性糸をジグザグに交差させて各「靴紐の孔」を通し、傷口の開口部を縫い合わせ、引っ張って締める。こうすると、切開した部位が早く癒合するし、見た目もきれいだ。

ナース:​

まあ、この「シューレース法」って不思議ですね!これなら、外科医学誌で読んだことがあるような気がします。この縫合法は1986年にアメリカのBruce Cohn医師のチームによって発明され、大型の傷がわずか2週間以内に治癒するのみならず、1回の手術で済むので、治療の費用と原価も少なくてすみ、患者さんも安心して早く退院することができます。それに、患者さんが用を足す場合も大きな裂傷や疼痛が少ないことがわかりました(Ching et al.、 2009; Saini et al.、 2018)。

急診の後

「メス」:​

君を誤解していたようだ。君は患者と私達の筋膜切割手術の負担をずっと軽くしてくれた。ありがとう。

「靴紐」:

いえ、そんな……もういいの。次に私が急診室に行ったら「シューレース法」を実行してくださいね。もう私を追い出しちゃだめよ!

参考文献

  • 鄭舉緒、楊菘宇、蔡裕銓、林煌基(民92)。綁鞋帶式的皮膚牽引技術關閉筋膜切開傷口的另一種選擇。中華民國整形外科醫學會醫誌12(3),204-210。
  • 荊偉政、林有德、許聰政、林承弘、林志鴻(民98)。綁鞋帶式皮膚牽引法應用於其他非筋膜切開之傷口。中華民國整形外科醫學會醫誌18(2),123-130。
  • Cohn, B. T., Shall, J. & Berkowitz, M. (1986). Forearm Fasciotomy for acute compartment syndrome: A technique for delayed primary closure. Orthopedics, 9(9), 1243-1246.
  • Compartment Syndrome (n.d.). In WebMD. Retrieved from https://www.webmd.com/pain-management/guide/compartment-syndrome-causes-treatments#1
  • Fascia. (n.d.). In Science Direct. Retrieved from https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/fascia
  • Saini, R. A., Sharma, D. & Shah, N. (2018). Shoe lace technique, a simple and less expensive method for Fasciotomy wound closure following compartment syndrome. International Journal of Orthopaedics Sciences, 4(1), 445-449.

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